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みすず竹細工について思うこと

長野県には大きく分けて2種類の竹を用いた竹製品の
産地があります。
一つは北信を中心に生産されている「根曲がり竹」を用いて
作られる竹細工。
もう一つは「すす竹」という竹を用いて作られる竹細工。
松本には後者のほうの竹細工がかつて産業としてありました。
数年前、そのすす竹を使って作られる「松本みすず竹」の
おそらく最後の職人であった中澤今朝源さんが亡くなられ、
松本のみずず竹細工は絶えてしまいます。
昨今、クラフトフェアを中心に、行政も係りながら
工芸の五月と題して、様々な催しが市中で開催され、
盛り上がりを見せています。
そんな中、「みすず竹細工」を復興しようという動きが生まれ、
現在数名の方々がみすず竹細工の復興に尽力されています。
まだまだ始まって2~3年ほど、しかしながら、近頃の
メディアの取り上げ方が少々エスカレートしている様子で
復興を美談と歌い、中でも若い従事者に脚光をあびせるなど、
その様子が、非常に表層的な一過性のものと感じてなりません。

みすず竹細工は一度暮らしの中から姿を消したものです。
復興するにあたり技術や形とともに、いやそれ以上に姿を消していった
理由をきちんと考えてほしいと思います。
また、材料となるすす竹も、環境の変化により今は松本周辺では
入手が難しいようで、そうした根底にある部分もしっかりと
見なくてはいけないでしょう。
地方性のある手工芸は、その基本が地域の環境に支えられているもので、
産地となった理由もそこにあり、だからこそ特色が生まれます。
その部分を度外視して、形や技術だけの復興は、
みすず竹細工のみすず竹細工たるものを曖昧にさせ、
結局どこかの物と区別が難しいものにならないとも限りません。

根曲がり竹は丈夫であり、主に農具などに利用されてきました。
丈夫であるので水を使う笊などにも適しています。
対してすす竹は、根曲がり竹より丈夫さは劣りますが、
肌が美しく、細かな細工に適した竹であり、文庫やこおり、
または文箱などが多く作られたようです。
昔は地元の企業が、決算のたびに新しいこおりを大量に
注文し、その仕事が忙しかったと聞きました。

現代生活の中で、みすず竹細工だけで生計を立てることは
大変難しいことだと思います。しかし、今またみずず竹細工のよさ
が再認識され、それを求めようとする人がいるのも事実です。
復興しだしたとはいえ、まだまだまったく産業化していませんが、
メディアの取り上げが、その部分がいつも欠落しており、
入手が困難であるにも係らず、市内の竹細工店に買い求めに来る方が
沢山いると聞きました。
そのたびに物がないという応えに窮するとも聞きました。

今、注目が集まっているときだからこそ、従事されている方々にも
伝えるメディアの方々にも、浮つくことなく、地に足をつけた仕事を、
取り上げ方をしてほしいと思います。

中澤さんが亡くなる前の年、県の伝統工芸品展の会場で、
みすず竹細工を紹介するコーナーを企画しました。
その際、中澤さんが、今は新しいものは作ってないから
古いものであれば・・・ということで、参考品として紹介しました。
それまですでに忘れさられてきていた、「みすず竹細工」の
展示コーナーの前で何十年も仕事してきた中澤さんが誇らしげな顔で
「俺なんて出来の悪い職人せ。丁稚からずっとやってきたけんど
 いい職人は一杯いて、俺が一番腕が悪かっただわ。」
そんなことをおっしゃっていました。その言葉を思い出します。

復興しようとしている「みすず竹細工」の従事者の中から
手芸ではなく、クラフトでもなく、中澤さんのような
その道一筋の「職人」が生まれてきたら、
本当の意味での復興といえるのでしょう。
そのためには、材料のこと、流通のこと、物のことなど様々な問題を
皆でこれからちゃんと考えていく必要があるのでしょう。

同じ松本の手工芸に従事するものとして、そう考えています。
by matsumotomingei | 2013-05-23 15:51 | 諸事雑談 | Comments(0)

松本民芸家具の社員がお届けする、松本民芸家具の日常、いろいろ。


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